へりくだって聞く

使徒言行録講解69

へりくだって聞く

使徒言行録27:1-12

1 わたしたちがイタリアへ向かって船出することに決まったとき、パウロと他の数名の囚人は、皇帝直属部隊の百人隊長ユリウスという者に引き渡された。2 わたしたちは、アジア州沿岸の各地に寄港することになっている、アドラミティオン港の船に乗って出港した。テサロニケ出身のマケドニア人アリスタルコも一緒であった。3 翌日シドンに着いたが、ユリウスはパウロを親切に扱い、友人たちのところへ行ってもてなしを受けることを許してくれた。4 そこから船出したが、向かい風のためキプロス島の陰を航行し、5 キリキア州とパンフィリア州の沖を過ぎて、リキア州のミラに着いた。6 ここで百人隊長は、イタリアに行くアレクサンドリアの船を見つけて、わたしたちをそれに乗り込ませた。7 幾日もの間、船足ははかどらず、ようやくクニドス港に近づいた。ところが、風に行く手を阻まれたので、サルモネ岬を回ってクレタ島の陰を航行し、8 ようやく島の岸に沿って進み、ラサヤの町に近い「良い港」と呼ばれる所に着いた。9 かなりの時がたって、既に断食日も過ぎていたので、航海はもう危険であった。それで、パウロは人々に忠告した。10 「皆さん、わたしの見るところでは、この航海は積み荷や船体ばかりでなく、わたしたち自身にも危険と多大の損失をもたらすことになります。」11 しかし、百人隊長は、パウロの言ったことよりも、船長や船主の方を信用した。12 この港は冬を越すのに適していなかった。それで、大多数の者の意見により、ここから船出し、できるならばクレタ島で南西と北西に面しているフェニクス港に行き、そこで冬を過ごすことになった。

排他的になってはいけない

 キメハラという言葉があるそうです。
 キメハラのハラは、セクハラとかパワハラとかのハラです。ハラスメント、嫌がらせと言う意味ですね。キメは鬼滅のキメ。鬼滅の刃ハラスメントです。
 お前、鬼滅見てないのかよ~という嫌がらせがあるんですね。
 今年は鬼滅の刃が流行しています。映画も公開されました。コロナで映画館に行くのを自粛してきた人も多くいましたが、鬼滅の映画を見るために久しぶりに映画館に足を運ぶという人も多くいます。
 社会現象ともなっている鬼滅の刃ですが、そのマンガやアニメ、映画を見るかは完全に個人の自由ですね。見るのも自由、見ないのも自由です。
 しかし日本人の間には強い同調圧力があります。
 多くの人が見ているなら、見ないという選択肢は奪われてしまいます。
 見ない人を仲間外れにしてしまうのです。
 日本でなかなか多様性というのは認められません。
 鬼滅の刃を見ないなんてありえない。当然、鬼滅を見るべきだ。
 そのように自分たちが正しく、他は間違っているという狭い世界で生きていてはいけません。
 違う立場の人の話を聞く。時には、少数者や弱い立場の人たちの声に耳を傾けることも大事です。
 そうすることで世界が広がっていきます。

良い港へ

 今日の本文はパウロがローマに向けて船出する場面です。Go To ローマが始まりました。しかし楽しい旅というわけにはいきません。身分は囚人です。
 ルカとアリスタルコも同行していました。
 まず小アジアの北西にあるアドラミティオンに帰る船に乗りました。カイサリアから船に乗り、シドンへ。そしてキプロス島の方へ向かい、キリキア州とパンフィリア州の沖を過ぎ、リキア州のミラに着きました。
 ミラでイタリア行きの船に乗り換えました。エジプトのアレキサンドリアからローマに穀物を運ぶ船のようです。
 そこからは風に悩まされました。クニドス港に寄り、サルモネ岬を回り、ようやくクレタ島の良い港と呼ばれるところに着きました。
 季節は断食日を過ぎていました。9月か10月頃です。これから寒くなってきます。風も強くなります。風が強まれば波が荒れます。船旅は危険です。
 パウロはその危険性を訴えました。
 しかし船長とオーナーはフェニクス港まで行こうと言います。良い港は、名前はいいのですが、冬を越すには良くない港でした。それでフェニクス港まで行って冬を越すのがいいというわけです。
 パウロも旅に慣れてはいますが、専門家ではありません。しかも身分は囚人です。
 それに対し、船長とオーナーは航海の専門家です。
 百人隊長ユリウスは、船長とオーナーの話を信用しました。
 大多数の者も賛成したので、フェニクスに向けて出港することになったのです。

聞きたい話を聞く

 私たちは誰の話を信用するでしょうか。
 自分の聞きたい話です。自分を安心させてくれる話を聞きたいです。
 百人隊長には、囚人パウロの話より、航海の専門家の話の方が安心できます。
 しかしそれが正しい話とは限りません。
 イスラエル王国でソロモン王の後を継いだのは息子のレハブアム王でした。
 ソロモンの時代は神殿、王宮、町の建設、異教の祭壇など公共事業の連続でした。また1000人の妻たちを養うために税金が使われます。それらの負担は民にのしかかります。苦労させられてきた民は、負担を軽くしてほしいと新しい王に訴えました。
 長老たちは民の要求に応えるべきと言います。彼らは政治の経験が豊富な専門家たちです。
 しかしレハブアム王は友人たちの話に従いました。彼らはレハブアムと一緒に育った気の合う仲間たちです。彼らは言います。「父のソロモンより、祖父のダビデより、お前が偉大であることを示すチャンスだ。負担を重くしてやれ!」それでレハブアムは民の要求を退けました。
 長老たちの知恵ある助言より、仲間たちの話の方が聞きやすいです。
 これに民は反発し、イスラエル王国は分裂しました。

へりくだって羊飼いの声を聞く

 漁師だったペトロは、ある日夜通し漁をしたのに魚が一匹も取れませんでした。
 漁を終えて網を洗っていると、ナザレのイエスという男が来て船を貸してほしいと言います。ナザレで大工をしていた人です。
 そのナザレのイエスがペトロに、沖に漕ぎ出して漁をしなさいと言いました。
 大工に何がわかる。夜通し漁をしたのに1匹も取れなかった。漁のことは漁師である自分が一番よく知っている。こんな話、無視してもおかしくありません。
 しかしペトロは、大工の話を信用しました。そして沖に出て網を降ろすと、網が破れそうになるほどの魚が取れました。
 ペトロはなぜイエス様の話を信用できたのでしょうか。
 自分の力では魚が取れなかった。そのようなどうしようもない状況に置かれていたからかもしれません。
 へりくだることが大事です。
 自分の力ではどうしようもない。自分が正しいという考えを捨てる。そのとき、ささやかに語りかける主の声を聞きます。
 私たちは何者なのでしょう。
 ライオンのような王者ではありません。
 優雅な馬でもありません。
 馬耳東風と言います。東風は暖かい春の風です。冬の終わりに暖かい風が耳に当たると、春が来たな、とわかりますね。でも馬は、耳に東風が当たっても何も感じません。そのように、話を聞いても何とも思わない人のことを馬耳東風と言います。
 私たちは羊です。ライオンのような力はない。馬のような速さもない。弱い羊です。しかし聞く力はあります。

わたしの羊はわたしの声を聞き分ける。わたしは彼らを知っており、彼らはわたしに従う。

ヨハネによる福音書10:27

 へりくだって羊飼いイエスの声に従いましょう。

耳を傾けるとき大切なことに気づく

 小さな者の声を聞くとき、大切なことに気づかされることがあります。
 5つのパンと2匹の魚を持ってきたのは少年でした。子どものお弁当だったわけです。5000人以上の男たちに食べさせなければならないのに、子どもの弁当が何になる?うるさいからあっちへ行ってろ。そのように扱われてもおかしくありません。
 しかし子どもたちは知っているのです。少しのお弁当でも、私たちの神様は皆を食べさせることができる。1つの石ころでも、万軍の主はあの巨人を倒せる。ご主人様の病気がどんなに重くても、イスラエルの神様は癒すことができると。
 子どもだけではありません。
 社会の中で労働力にならない人は、生産性がないお荷物のように扱われるかもしれません。高齢者の医療費などを若い世代で支えなければなりません。少子高齢化が進んでいく中で、その負担は重くなるばかりです。
 しかし高齢者の方々の経験は貴重です。
 イエス様が生まれてすぐのとき、ヨセフとマリアは幼子イエスを神殿に連れて行きました。そこでアンナというおばあちゃんに会います。御年84歳です。彼女は夜も昼も神に仕えていました。若いマリアは彼女との出会い、彼女の祈りにどれほど励まされたことでしょう。そして彼女は人々に、幼子イエスのことを証しし続けました。
 このような方がいます。祈りで支えてくださるおじいちゃんやおばあちゃん。また彼らの信仰の歩みは貴重な証しとなります。
 私自身、母教会のおばあちゃんたちに、今でも祈りで支えられているという実感があります。

聞きづらいからこそ信仰が必要

 そもそも自分の聞きやすい話ばかり聞くなら、信仰なんていらないです。自分の頭で理解できる話なら、信じる必要はないわけです。
 しかし私たちは、自分の理解を超えた話を、信仰で受け入れてきました。
 神の言葉は私たちの理解を超えているからこそ、信仰が必要なのです。

その驚くべき知識はわたしを超え/あまりにも高くて到達できない。

詩編139:6

 聞きやすい話ばかりを聞いてはいけません。耳に痛い話、違う立場の話、小さな声に耳を傾けてください。そのとき、ささやかに語りかける主の声を聞きます。

 へりくだり、耳を傾けていきましょう。

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