使徒言行録講解66
利己的で不当な扱い
使徒言行録24:22-27
22 フェリクスは、この道についてかなり詳しく知っていたので、「千人隊長リシアが下って来るのを待って、あなたたちの申し立てに対して判決を下すことにする」と言って裁判を延期した。23 そして、パウロを監禁するように、百人隊長に命じた。ただし、自由をある程度与え、友人たちが彼の世話をするのを妨げないようにさせた。24 数日の後、フェリクスはユダヤ人である妻のドルシラと一緒に来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた。25 しかし、パウロが正義や節制や来るべき裁きについて話すと、フェリクスは恐ろしくなり、「今回はこれで帰ってよろしい。また適当な機会に呼び出すことにする」と言った。26 だが、パウロから金をもらおうとする下心もあったので、度々呼び出しては話し合っていた。27 さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウス・フェストゥスが赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に気に入られようとして、パウロを監禁したままにしておいた。
人間とは利己的なもの
菅首相が日本学術会議の会員候補者のうち6名を任命しなかったことが問題になっています。
任命権は首相にあるので、任命しないことももちろん可能です。
しかし今までは推薦された会員をそのまま任命するのが慣例でした。
なぜこの6名が任命されなかったのか、具体的な理由も説明されていません。
日本学術会議は様々な分野の学者さんが会員で、政府に対する提言や科学の役割についての啓発などの活動をします。
選ばれなかった6人は皆、人文分野の学者で、過去に政府の政策に対して反対したことがありました。
ですから、政府の意にそぐわない人物を任命しなかったのではないかという憶測を呼んでいます。
前の首相の時から、自分に都合の悪いことは説明を避けてきました。また年間10億円の予算を投じている機関なのでこの機会に見直しをすると言い出し、論点をずらそうとしています。
本当のことを話したら都合が悪くなるのでしょう。
人間とは利己的なものです。自分に反対する人の意見は聞きたくありません。自分の立場を脅かす人は冷たくあしらいます。自分の利益のためなら他人を平気で利用します。
カイサリアで監禁される
今日の本文はパウロがカイサリアで監禁される場面です。
千人隊長は名もなき若者の話を聴き、パウロをカイサリアへ送りました。暗殺者から守るため、夜中に470名もの護衛をつけて出発しました。そして夜のうちにアンティパトリスへ行きました。
翌日、騎兵たちに護衛を任せ、カイサリアまで送りました。カイサリアには総督官邸があります。この時の総督はフェリクスでした。
パウロがカイサリアに送られたことを知った大祭司は、弁護士を連れて行ってパウロを訴えました。
その訴えの内容は、パウロが騒動を起こしているということと、神殿を汚しているということです。
騒動を起こした疑いについてパウロは「エルサレムに行ってから12日しかたっていないのに騒動を起こすことは不可能だし、誰かと論争をしたり扇動したりしたのを見た人はいない。証拠もない。」と否認しました。
神殿を汚しているという疑いについては、「清めの儀式のために神殿に行っただけ。アジア州から来たユダヤ人が勘違いしている。そいつらを連れてこい」と言います。
それに対しユダヤ人は、何の証拠も出すことができませんでした。
訴えられていることに対して十分な証拠がなければどうなりますか。嫌疑不十分で無罪放免です。
ところがフェリクスは、「千人隊長が詳しく知っているはずだから、彼が来るまで待つ」と言って裁判を延期しました。
そしてパウロは監禁されることになります。
利己的な総督フェリクス
フェリクスが裁判を延期したのは、本当に事実を見極めたかったからでしょうか。
その後の彼の行動を見てみると、違う事情があったことがわかります。
パウロは監禁されていましたが、ある程度の自由はありました。訪問は自由にできました。
フェリクスは妻のドルシラと一緒にパウロのもとを訪ねました。
ドルシラはヘロデ・アグリッパ1世の娘です。使徒ヤコブを処刑し、神に撃たれて虫に食われて死んだヘロデです。
ドルシラは急死した父が憎み、それから世界中に広がった信仰がどういうものか興味があったかもしれません。
フェリクスもキリスト・イエスへの信仰のことを詳しく知っていました。それで夫婦で共にパウロから話を聞きました。
しかしフェリクスは福音を素直に聞くことはできませんでした。
愛や恵みの話は喜んで聞いたでしょう。しかし正義や節制、裁きの話になると恐ろしくなり、耳を閉ざしました。
自分の耳を喜ばせてくれる、都合のいい話を聞きたかったのです。
それでもフェリクスはパウロを度々呼び出し、話を聞きました。その動機は、実はパウロから金をもらいたかったからです。
監禁する権限も釈放する権限も総督にあります。それで総督に金を渡し、早く釈放してもらうという慣習がありました。ワイロです。
もちろんローマ法で禁じられている違法行為です。
しかし裁判を不当に延期し続けることで、パウロがワイロを出すのを待ちました。
パウロがそんな悪事をするはずがありません。パウロの監禁は続きました。
そうこうしているうちにフェリクスの任期が終わりました。通常は任期が終わる前に、裁判などの問題は片付けておきます。
しかしフェリクスはパウロを放置しました。
2年間もです。
パウロを監禁し続けることで、ユダヤ人に気に入られるとわかっていたからです。
結局、フェリクスが裁判を延期したのは、自分に都合のいい話を聞くため、金をもらうため、ユダヤ人の気に入られるためでした。
完全に利己的です。
自分の中にも同じ問題がある
こんなフェリクスを見ながら、最低な野郎だと憤るかもしれません。
そんな私たちも同じように利己的です。
フェリクスは他人だから、その自己中心に憤ります。
しかし自分の中にもフェリクスのような部分があるなと考えましたか?
私たちも自分に都合のいい話ばかり聞いて、自分の心に突き刺さる話には耳を閉ざしていないでしょうか。
自分の利益を優先して、他の人を利用しようとしていないでしょうか。
自分をよく見せることに心を奪われていないでしょうか。
私たちもフェリクスと同じように利己的で、他の人に対して不当な扱いをしてしまいます。
私たちの利己的な思いがイエスを殺した
イエス・キリストはまさに私たちのそのような利己的な思いによって不当な扱いを受け、殺されました。
宗教指導者たちはイエスが正しいので憎み、殺そうとしました。
イスカリオテのユダは銀貨30枚でイエスを売りました。
ピラトはイエスに罪がないと知っていながら、自分を守るためにイエスを十字架につけました。
私たちのこの利己的な思いが、イエスを十字架につけて殺したのです。
神は人の悪をも善に変える
旧約聖書に登場するヨセフも、利己的な思いによって不当な扱いを受けました。
父から特別に愛されたヨセフは、お兄さんたちに憎まれました。そしてエジプトに売られてしまいました。
エジプトで奴隷になったヨセフは、主人の奥さんの悪い誘いに従わなかったために、濡れ衣を着せられて牢屋に入れられました。
牢屋の中で王に仕える役人に出会いました。ヨセフは彼の夢を解き明かし、彼が解放されることを告げました。そして解放されたら、自分が受けている不当な扱いを王に告げてくれるように頼みました。ところがこの役人は、自分が解放されると安心して、ヨセフのことなどすっかり忘れてしまいました。
彼が思い出すのは2年後です。
ヨセフはこの役人の紹介で王の夢を解き明かし、その功績でエジプトの総理大臣になりました。そしてエジプトに食料を買いに来た兄たちと再会することになりました。
ヨセフはこのように告白しています。
あなたがたはわたしに悪をたくらみましたが、神はそれを善に変え、多くの民の命を救うために、今日のようにしてくださったのです。
創世記50:20
人間の利己的で不当な扱いも、神は善に変えることができます。
キリストは利己的な思いを滅ぼす
私たちの不当な扱いによってイエス・キリストは十字架で殺されました。しかし神はこのイエスを3日後に復活させました。
私たちの救いのために、イエス・キリストは私たちの利己的で不当な扱いを引き受けてくださったのです。
利己的に生きてきた古い私たちは、キリストと共に十字架で葬られました。
今は復活の主と共に新しい命に生かされています。
私たちの内にキリストが生きています。
もう自己中心に生きることはできません。王の王、主の主であるキリストに、私たちの心を支配していただきましょう。
自分にとって都合の悪い話も、私たちを癒すためのメスです。自分の問題が明らかにされることで、私たちは日々キリストの似姿に変えられていきます。
自分のことばかりではなく、他の人の益のために仕える者になることができます。
もう自分をよく見せようとする必要はありません。神に愛されている子どもとして大胆に生きることができます。
キリストは私たちの利己的な思いを滅ぼし、私たちを神の栄光のために、また人々を愛するために生きる者へと造り変えてくださいます。
自己中心の人生を止め、キリスト中心の人生を歩ませていただきましょう。