歴代誌講解33
知恵を求めたソロモン
歴代誌下 1:1-13
1 ダビデの子ソロモンは自分の支配を固めた。彼の神、主が共にいて、彼を高め偉大な者とされた。2 ソロモンは、すべてのイスラエル、千人隊と百人隊の長、裁判官、全イスラエルのすべての指導者、家系の長に呼びかけ、3 全会衆と共にギブオンにある聖なる高台に行った。そこには、かつて荒れ野で主の僕モーセが造った神の臨在の幕屋があった。4 ただし神の箱は、既にダビデがキルヤト・エアリムからエルサレムに幕屋を張って備えた場所に移してあった。5 主の幕屋の前には、フルの孫でウリの子であるベツァルエルの造った青銅の祭壇があった。ソロモンは会衆と共に主に尋ね、6 そこで臨在の幕屋にいます主の御前にある青銅の祭壇に上り、その上で焼き尽くす献げ物一千頭をささげた。7 その夜、神はソロモンに現れて言われた。「何事でも願うがよい、あなたに与えよう。」8 ソロモンは神に答えた。「あなたは父ダビデに豊かな慈しみをお示しになり、父に代わる王としてわたしをお立てになりました。9 神なる主よ、あなたは父ダビデになさった約束を今実現し、地の塵のように数の多い民の上に、わたしを王としてお立てになりました。10 今このわたしに知恵と識見を授け、この民をよく導くことができるようにしてください。そうでなければ、誰が、あなたのこの大いなる民を裁くことができましょうか。」11 神はソロモンに言われた。「あなたはこのことを望み、富も、財宝も、名誉も、宿敵の命も求めず、また長寿も求めず、わたしがあなたをその王として立てた民を裁くために、知恵と識見を求めたのだから、12 あなたに知恵と識見が授けられる。またわたしは富と財宝、名誉もあなたに与える。あなたのような王はかつていたことがなく、またこれからもいない。」13 ソロモンはギブオンにある聖なる高台、その臨在の幕屋を後にしてエルサレムに帰り、イスラエルを治めた。
誰がジョーカーを作ったか
2019年、バットマンの悪役で有名なジョーカーの映画が公開されました。
ゴッサムシティは財政の崩壊により失業者があふれ、貧富の差が拡大していました。
コメディアンを目指すアーサーは派遣ピエロとしてわずかな金を稼ぎ、年老いた母親と暮らしていました。アーサーは緊張すると発作的に笑いだしてしまう病気がありました。
ある日アーサーがピエロ姿で宣伝をしていると、持っていた看板を若者たちに奪われます。アーサーは追いかけますが、待ち構えていた若者たちに暴行されてしまいます。さらに派遣会社からは看板を壊したということで責められます。
不運が続くアーサーを心配した同僚が、護身用にと拳銃を半ば強引に持たせます。
後日、アーサーは小児病棟の慰問中に拳銃を落としてしまったことでクビになりました。
その帰りにアーサーが地下鉄に乗っていると、1人の女性が3人の男に絡まれていました。アーサーは見て見ぬふりをしようとしますが、発作が起きて笑いが止まらなくなってしまいます。自分たちを笑っていると勘違いした男たちにアーサーは暴行されますが、反射的に銃を取り出し3人とも射殺してしまいました。
この3人の男たちがゴッサムシティの一流企業ウェイン産業の社員だったことから、貧困層から富裕層への復讐だと報道されました。これがきっかけで富裕層に対する抗議デモが起こります。
その後も悲運が重なったアーサーは母を殺し、同僚を殺します。そしてあこがれのコメディアンをもテレビの前で殺害します。
これがきっかけでデモの参加者は暴徒と化し、富裕層を攻撃し始めました。そして少年だったブルース・ウェインの両親も彼の目の前で暴徒によって射殺されます。
ジョーカーはどのように生まれたのでしょうか。
アーサー自身の中に凶悪さがあったとも言えますが、アーサーが他の人より凶悪な人間だったとは言えません。
むしろ社会の不安定さの中で、ジョーカーが生み出されていったと言えるのではないでしょうか。
とすれば、現実の世界でもジョーカーのようなモンスターが生み出される可能性はあります。
自爆攻撃をするテロリスト、障がい者の施設で19人を殺害した若者、ジョーカーのような服装で地下鉄に放火した若者、ビルに放火したおじさん、共通テストの会場で受験生を刺した高校生。
彼らがしたことは紛れもなく犯罪ですが、彼らを犯行に駆り立てたのは本人の罪性だけではなくこの社会もです。
この社会を正しく治める指導者が必要とされています。
神に助けを求める人が必要とされている
今日の本文はソロモンがギブオンの幕屋で礼拝する場面です。
父ダビデの後を継いでダビデ王朝の2代目の王になったソロモンは、体制を整え、反対者たちを追い出し、その支配を固めました。
先代のダビデが偉大すぎるので、2代目のソロモンはどうしても比較されます。ダビデの場合は周辺諸国との戦いでの勝利があり、国民からの支持を得ました。しかしソロモンの時代には既に戦争が終結しています。国民の支持を得るには、国を平和に治めることで実績を残す必要がありました。
国を平和に治めるため、まず礼拝した
そこでソロモンがまずしたことは、礼拝でした。神殿建築はまだ始まっていないので、ギブオンにあった臨在の幕屋で礼拝をささげました。
この臨在の幕屋は神がモーセに造らせたもので、ベツァルエルが作った青銅の祭壇もありました。
これから神殿建築、そして神の民イスラエルを治めるソロモンにとって、臨在の幕屋は神様のプロジェクトを成し遂げた信仰の先輩たちの遺産でした。
知恵と分別を求める
その夜、驚くべきことが起こります。
神がソロモンに現れ、「何事でも願うがよい、あなたに与えよう。」と言うのです。
ランプの巨人のように神が「何でも願え」と言ったのは、旧約聖書の中でソロモンだけです。
「何でも願え」と言われたら何を願いますか。
ソロモンは民を治める知恵と識見を求めました。
識見は難しい言葉ですが、判断力や分別と言い換えることができます。
王も民も神の恵みで存在する
父ダビデは、偉大さ、力、光輝、威光、栄光、天と地にあるすべてのものが主のものであると知っていました。すべては主の恵みであり、主から与えられたものです。
ソロモンは父からそのことを繰り返し教えられてきたことでしょう。自分が王になったのも主の恵みだと告白します。
そして民のことを地の塵のように数多いと表現しています。これは神がアブラハムに約束した空の星、海辺の砂のようになるという約束を思わせます。
だからこそソロモンは、神に助けを求めます。
すべては主の恵み。
国を治めるために、ソロモンは率先して神を礼拝し、祈りました。
求める人に与える神
新約聖書を見ると、イエス様が「何をしてほしいのか」と聞く場面があります。
山上の説教では「求めなさい。そうすれば、与えられる。」と言い、最後の晩餐の席では「わたしの名によって願うことは、何でもかなえてあげよう」とまで言います。
そしてヤコブはこう言いました。
あなたがたの中で知恵の欠けている人がいれば、だれにでも惜しみなくとがめだてしないでお与えになる神に願いなさい。そうすれば、与えられます。
ヤコブの手紙1:5
太っ腹な神様です。
まず祈る
すべては神のものであり、神から与えられる。そして神は「求めよ」と言う。
だとしたら、神に祈り求めずにはいられないでしょう。
何かを始めようとするとき、まず祈ってから始めてください。
一週間は礼拝から始まります。イエス様も一日を祈りで始めました。
求める人は足りなさを知る人
あなたは神に何を求めますか。
ソロモンは知恵を求めましたが、ソロモンに知恵がなかったと思いますか?
本当に知恵がない人は、知恵を求めません。知恵のない人は自分に知恵があると思い込んでいるからです。
私は大学受験の時まで数学がわかったつもりでいました。しかし大学の最初の講義で、自分は数学を全く知らなかったと思い知らされました。
まず自分の弱さ、足りなさ、愚かさを知ってください。そうすれば自分に何が必要か見えてくるでしょう。
偉大な大統領は祈りの人だった
アメリカ大統領だったリンカーンは奴隷解放や南北戦争の勝利、ゲティスバーグ演説などの実績を残し、アメリカで最も偉大な大統領の1人に挙げられます。
そのリンカーンは南北戦争のさなか、ホワイトハウスでこのように祈っていたそうです。
『「愛する神様!わたしは足りないしもべです。私の力では成すことが出来ません。新しい力を与えて下さい。勇気を失わないように助けて下さい。最後まで神様と共に歩めるよう私をお守り下さい。この民族を憐れみ、1日も早く戦争が終わり、統一した国を作ることが出来るよう助けて下さい。戦争で死んでいく若者達をお守り下さい。・・・」』
リンカーン大統領の偉大な業績はこのように祈りの人だったからこそ生まれたと言えるでしょう。
謙遜に自分に足りないものを見つめていたので、神の助けを求めることができました。
今この国には、このような人が必要です。
自分の弱さを知って神に助けを求める人。この国の人々の置かれた状況に心を痛め、神の憐れみを求める人。
そのように祈る人々が必要です。
キリストの心で分別する人が必要
神はソロモンの祈りに答えます。
「あなたはこのことを望み、富も、財宝も、名誉も、宿敵の命も求めず、また長寿も求めず、わたしがあなたをその王として立てた民を裁くために、知恵と識見を求めたのだから、あなたに知恵と識見が授けられる。またわたしは富と財宝、名誉もあなたに与える。あなたのような王はかつていたことがなく、またこれからもいない。」
神はソロモンが求めた知恵と分別を与えると約束しました。
さらに求めていない富と名誉までも与えると言います。
ソロモンを偉大な王にするために必要なものがすべて神から与えられました。
ソロモンの知恵
ソロモンの知恵の具体的なエピソードは列王記上に記されています。
5章を見るとソロモンは3000のことわざ、1500の歌をつくったとあります。ソロモンは文学の面で優れていました。
また動植物についての知識もあり、自然科学にも優れていました。
ソロモンが知恵をもってイスラエルを治めた有名なエピソードとして、ソロモンの裁きがあります。
2人の女性がソロモンのもとに来ました。
彼女たちは一緒に暮らしていて、同じ時期にそれぞれ子どもを産みました。
ある夜、一方の母親が寝ているときに赤ちゃんの上に乗り、死なせてしまいました。それで赤ちゃんを入れ替えたというのです。
どちらの女性も「生きているのが私の子で、死んだのは相手の子だ」と主張します。
そこでソロモンは剣を持って来させました。そして子供を二つに裂いて二人に渡すよう命じます。
一方の母親は争いにうんざりしたのか「そうしてください」と言います。
しかしもう一方の母親は「お願いです。この子を生かしたまま相手にあげてください。この子を絶対に殺さないでください。」と懇願します。
これでどちらが本物の母親かはっきりしましたね。
親ならば、自分の子が生きることを願うはずです。
王の下した裁きを聞いて、イスラエルの人々は皆、王を畏れ敬うようになった。神の知恵が王のうちにあって、正しい裁きを行うのを見たからである。
列王記上3:28
こうして神が与えたソロモンの知恵により、国は平和に治められました。
そして国民からの支持を得ることができました。
真の分別は神から来る
ソロモンのように知恵をもって判断することが求められます。
ただ知識があるだけでは不十分です。分別を持たなければなりません。
イエス様は、人を裁くなと言いました。人間の分別力ではわからないことがあります。
人を本当に裁くことができるのは神様だけです。
だから神様の目で判断する必要があります。
人間の眼差しとキリストの眼差し
人間の目から見ればジョーカーは卑劣な犯罪者。しかし彼も混乱した社会によって生み出された被害者であると言うこともできます。
テロリストが先進国を攻撃するのは、日本を含む先進国による不平等な構造という背景があるのかもしれません。
生産性のある人間でなければならないという強迫観念が、重い障がいのある人は死んだ方がいいのだという歪んだ思想を生み出してしまったのかもしれません。生産性のある人間であるべきという社会の圧迫に、本人も苦しめられていました。
先月ビルを放火したとされる容疑者は「死ぬときぐらい注目されたい」とネットで検索していました。誰にも注目されない。誰にも関心を持ってもらえない。どうせ死ぬなら、死ぬときぐらい注目されたい。人と人との距離が広がる今の時代の中で彼に共感する人はこれからも出てくるでしょう。
昨日受験会場で高校生が事件を起こしました。はっきりしたことはまだわかりませんが、優秀な生徒だったようです。しかし成績が落ちてしまった。優秀でなければならない。勝たなければならない。そのような圧迫の中でもがく若者たちがいます。しかしやがて挫折し、自分が平凡な人間であると思い知らされます。それを受け入れられず、大きな事件を起こす。
彼らはこの社会によって苦しめられています。
誰かが社会とは違う価値観を示すことができたなら。あなたはありのままで生きていいのだと、あなたは神の目から見て尊い宝なのだと言ってくれる人がいれば。そばにいて寄り添ってくれる人がいたならば、彼らはモンスターにならなくてよかったかもしれません。
誰かがキリストの心で、イエス様の愛の眼差しで、飼い主のいない羊のように弱り果て打ちひしがれる彼らを見て深く憐れむことができたなら、この社会は変えられていきます。
神の国と義を求める
イエス様は言いました。
何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。
マタイによる福音書6:33
まず求めるべきは神の国です。
この地に神の義が行われ神の国が来るように、神の知恵を持って分別できる人が必要です。
それはイエス様の心を受け取り、イエス様の愛を持って歩んで行く人です。
その時、極限まで壊れかけたこの世界も、神の国に造りかえられていきます。