選択の責任を負う

聖金曜日祈り会

選択の責任を負う

ヨハネによる福音書 19:10-16

10 そこで、ピラトは言った。「わたしに答えないのか。お前を釈放する権限も、十字架につける権限も、このわたしにあることを知らないのか。」11 イエスは答えられた。「神から与えられていなければ、わたしに対して何の権限もないはずだ。だから、わたしをあなたに引き渡した者の罪はもっと重い。」12 そこで、ピラトはイエスを釈放しようと努めた。しかし、ユダヤ人たちは叫んだ。「もし、この男を釈放するなら、あなたは皇帝の友ではない。王と自称する者は皆、皇帝に背いています。」13 ピラトは、これらの言葉を聞くと、イエスを外に連れ出し、ヘブライ語でガバタ、すなわち「敷石」という場所で、裁判の席に着かせた。14 それは過越祭の準備の日の、正午ごろであった。ピラトがユダヤ人たちに、「見よ、あなたたちの王だ」と言うと、15 彼らは叫んだ。「殺せ。殺せ。十字架につけろ。」ピラトが、「あなたたちの王をわたしが十字架につけるのか」と言うと、祭司長たちは、「わたしたちには、皇帝のほかに王はありません」と答えた。16 そこで、ピラトは、十字架につけるために、イエスを彼らに引き渡した。こうして、彼らはイエスを引き取った。

批判を恐れたら何も言えない

 金曜日の夜は「チコちゃんに叱られる」という番組が放送されます。5才の女の子チコちゃんが「どうしてラップがくっつくの?」とか「どうしてテレビが映るの?」とか身近だけれどよくわからないことについて質問をしてきます。それに答えられないと「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」と叱られます。
 番組ではそれらの質問の答えを、専門家の解説を交えて紹介してくれます。その答えの下に小さく「諸説あります」と書かれることがあります。
 よくわからないことですから、専門家の中でも意見が分かれることはよくあるわけです。それで批判を避けるため、そのような注意書きをしておきます。
 Aだと考える人たちとBだと考える人たちの両方を納得させられる答えがあるなら、それが通説になるでしょう。その通説がないなら、Aの人たちとBの人たち両方を納得させることは最初から無理です。
 自分の意見を批判されることを恐れていたら、何も主張できなくなります。

自分の立場を明確にする

 今日は聖金曜日です。イエス様が十字架につけられ、死んで葬られた日です。
 イエス様の十字架には様々な人が関わっています。裏切ったユダ、逃げ出した弟子たち、イエスの正しさを妬んだ宗教指導者たち、権力者の扇動に流される群衆などです。
 今日はその中でピラトに注目してみます。
 使徒信条でも「ポンテオ・ピラトのもとに苦しみを受け、十字架につけられ」と言われています。
 ピラトは「お前を釈放する権限も、十字架につける権限も、このわたしにあることを知らないのか。」と言います。イエスに無罪を言い渡し釈放するのも、死刑を宣告し十字架につけるのも、最終的にはピラトの権限でした。

罪がないと知りつつ十字架刑を下す

 ピラトはイエス様を取り調べする中で、イエス様に何の罪もないということがわかってきます。それでイエス様を釈放しようと言います。
 しかしユダヤ人は反対し、「十字架につけろ」と叫びだします。
 それでも罪を見出すことができないので、明らかな無罪です。十字架につける理由がありません。
 ピラトはイエス様を釈放しようと努めますが、ユダヤ人たちは「もし、この男を釈放するなら、あなたは皇帝の友ではない。王と自称する者は皆、皇帝に背いています。」と叫びだします。
 ピラトはこの言葉に恐れを感じ、イエス・キリストに十字架刑を下すことを決意します。

恐れから自分の考えを曲げる

 ピラトには、「イエスに罪はない。だから釈放しよう」という自分の考えがありました。
 ユダヤ人はそれに反対しました。
 反対意見が生じるのは仕方ありません。それでもピラトには権限がありますから、反対を押し切って無罪の判決を下すこともできました。
 しかしピラトは自分の考えを曲げて罪のないイエスを十字架で死なせます。
 イエスを王の権威を持つ者だと認めてしまうと、皇帝への反逆と見なされるかもしれない。この騒ぎを治めないと評価が下がる。そのような自己保身から、ピラトは自分の考えを曲げてしまいました。

 私たちは自分の考えや信念を持ちます。
 それを変えさせようとするものがあります。特に恐れが力を持っています。こうしたら誰かを悲しませるのではないか、自分の立場が危うくなるのではないか。そのような恐れによって、決断したことも揺るがされます。

あなたはどう思うのか

 私たちには自分の立場、考えをはっきりさせなければならない時があります。
 イエス・キリストは弟子たちに「人々はわたしを何者だと言っているか」と問いました。
 弟子たちは、洗礼者ヨハネだとか、エリヤだとか、人々の意見を紹介しました。
 続けてイエスは聞きます。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」
 ペトロは「あなたはメシア、生ける神の子です」と明確に答えました。

 イエス・キリストは私たちにも問います。「あなたはわたしを何者だと思うのか」
 あなたはどう答えますか。牧師はこう言っている。両親はこう言っている。教科書にはこう書いている。
 そうではなく、あなたはどう思うのか。

反対されても自分の立場を選択する

 答えによっては反対を受けることもあるでしょう。
 おかしく思われるかもしれない。復活なんて信じてるの?などと。
 この国の少なくとも99%の人と違う考えを持つのですから、反対されるのは避けられません。
 それでも「あなたはメシア、生ける神の子です」と答えられるのか。
 私たちはその選択を迫られます。

責任から逃げると流される

 自分の選択の責任を取らずに逃げ続けると、私たちは周りの人たちに流されていきます。
 ピラトは周りの声に流され、自分の考えを曲げ、イエスに十字架刑をくだします。
 その結果、ピラトの名前は2000年間、毎週日曜日、世界中の教会でその名が呼ばれます。イエスを苦しめた張本人として。

自分の人生は自分が選択する

 私たちの人生でも重要な選択をしなければいけない場面があります。
 どの学校に進学するか、どこに就職するか、誰と結婚するのか。
 その決断は自分で下さなければなりません。自分の人生ですから、自分が選択の責任を負うのです。
 親が言ったから、先生が言ったから、社会がこういう状況だからと、他の人や状況のせいにして選択の責任から逃げたくなることがあるかもしれません。
 私たちは他の人との関わりの中で生きていますから、他の人から影響を受けることは当然あります。
 しかしあくまで選択するのは自分です。

他の人のせいにしてはいけない

 自分で選択しないなら、いつまでも言い訳する人生になってしまいます。
 善悪の知識の実を食べたのは、アダム自身の選択でした。ヘビのせいではありません。エバのせいでもありません。神が頼んでもないのにエバを造り、食べてはならない木の実というトラップを仕掛けたからでもありません。
 しかしアダムは選択の責任を取らず、「女が渡したから食べたのだ。あなたが私の横に置いたあの女が。」と言い訳します。
 いつまで逃げ続けるのでしょう。
 選択の責任から逃れた結果、人はイエスを殺します。
 自分の人生の選択を自分で下してください。

理不尽な状況をどう捉えるか選択する

 自分ではどうしようもない理不尽な状況もあります。自分の選択とは無関係に困難な状況に置かれます。
 ヨブは理不尽な苦難を受けました。正しい人として生きて来たけれど、財産を失い、子どもたちを失い、健康を失った。
 これらはヨブが選択した結果ではありません。

お前は何者か

 ヨブは友人との対話の中で「なぜ?」と神に問います。
 神はその問いに一切答えません。
 逆に神はヨブに問います。

2 これは何者か。知識もないのに、言葉を重ねて/神の経綸を暗くするとは。3 男らしく、腰に帯をせよ。わたしはお前に尋ねる、わたしに答えてみよ。

ヨブ記38:2-3

 なぜこんなことが起こるのか?という理不尽な状況の中で、神は問いかけてきます。
 お前は何者なのか。わたしに答えてみよ。
 そこで私たちは神の答えを待つのを止め、自分の答えを持たなければなりません。

神に与えられた自分の人生を生きる

 神は私たち一人一人を特別な存在として創造し、自由意思を与えました。
 神は私たち一人一人に問いかけます。
 お前は何者か。お前はどう考えるのか。お前は何を選択するのか。
 これはお前の人生だ。お前はわたしを何者だと思うのか。
 その人生の重大な選択を私たちに迫ります。

あなたは十字架とどう向き合うのか

 イエス・キリストは十字架上で私たちに問いかけてきます。
 お前はこの十字架とどう向き合うのか。
 ある人は裏切り、逃げ出し、妬み、自己保身に走る。
 自分の考えなどなく周りに流されていく者もいる。

神の愛を自覚する人は神に従う道を選択する

 福音書を見ると、最後まで従った女性たちもいました。ヨハネも十字架の死を目撃したようです。
 ヨハネという名は記されていませんが、主に愛された弟子として登場します。
 ヨハネは自分が主に愛されていると自覚していました。
 神に愛されていることを知る者は、最後までイエス様に従っていく道を選択できます。

 私たちは神に愛された弟子としてどのように生きるのか、その選択の責任を問われています。
 他の人や環境のせいにせず、私の考えはこれだと、自分の考え、信仰を持って歩んで行きましょう。

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